Zehetmayer H.(1990)は、Sanzenbecker H.とSobotoka R.(1974)の装置を用い、プルークでのトップリフトによるターンモデルを提示した。このターンモデルは、プルークでターン内スキーのトップを持ち上げ、重しをターン内側の後方に位置すると、ターン弧の曲率半径が短くなることを報告した。実験装置は、実物のサイドカットのあるスキーを用いて片側に1ターンをさせた。そこで、Zehetmayer H.の考えを発展させ、サイドカットがターンに及ぼす影響をなくすため、ストレートスキーを使用し、プルークでターン内スキーのトップをサーボモータにより交互に持ち上げ、連続ターンができるプルークトップリフトを開発(清水・長谷川,1992)した。 |
写真のように、左右の1)股関節の回旋、2)股関節の内転と外転、3)足関節の背屈と底屈に相当する部位を、ボルトによって可動かつ固定できる装置を作製した。合計6つのボルトの調整によって、プルークの開き角とスキーのエッジ角、およびトップリフト角(足関節の背屈と底屈)を任意に固定できるようにした。そして、サイドカットによるターンへの影響をなくすため、ストレートスキーを使用した。 そのようにして、プルーク状態で、右スキーのトップを持ち上げて固定し、斜面を滑降させると、ストレートスキーにもかかわらず、横ずれを伴って右ターンを行った。 |
プルークトップリフト連続ターンモデルの具体例として、ラジオコントロールとサーボモータによるプルークトップリフト連続ターンモデルを作製した。ここでは、両スキーがプルークを保つように固定し、かつ左右の足関節に相当する部位が独立して動作(背屈・底屈)できるよう2個のサーボモータを取り付けた。スキーは雪面や絨氈の上でもターンができるように、スキーの滑走面とサイドにテフロンテープを貼り付けた。そして、プルークトップリフト連続ターンモデルの、ターン内スキーの足関節の背屈とターン外スキーの底屈を行えば(あるいはその片方でも良い)、ターン内スキー(足関節の背屈側)の前方が持ち上がりトップリフトの状態になる。そこで、左右足関節の底屈と背屈の程度を大きくすると、トップリフトの程度も大きくなる。そして、左右足関節の底屈と背屈を切り替えれば、トップリフトも切り替わる。 このようにして、プルークトップリフト連続ターンモデルを、斜度20度の斜面で滑降させてみると、スキーのサイドカットがストレートにもかかわらず、プルークの状態でターン外スキーの横ずれを伴って連続ターン(プルークボーゲン)をすることができた。また、左右の足関節の背屈と底屈の切り替えの周期を速くしたり遅くする事により、小回りターンと大回りターンが可能であった。さらに、プルークの開き角を狭くするとターン弧の曲率半径が大きくなり、開き角を大きくするとターン弧の曲率半径が小さくなった。 このプルークトップリフト連続ターンモデルに、凹状スキーを履かせてターンさせてみると、ストレートスキーと同様にプルークボーゲンの連続ターンができる。その際、凹状スキーを履いた方が、ストレートスキーを履いた時よりターン弧の曲率半径が小さかった。このことは、トップリフトによるターンの方向とサイドカットによるターンの方向が一致したため、相乗効果でターンがしやすくなったと考えられる。 このように、トップリフトによるターンでは、サイドカットやスキーのたわみの効果による切れ込みターンとは異なり、横ずれを伴ってターンした。 長谷川と清水(1990)は、スキーの横ずれターンの力学の中で、サイドカットがなく、かつ変形しないストレートスキーが、横ずれによってターンをする条件や機構について、支え棒(Outrigger)付き1本スキーモデルのシミュレーションを行った。そして、ターンのきっかけとして、SS系に適当な大きさの横ずれの角速度を与えなければならないことを、数値計算によって明らかにした。トップリフトによってストレートスキーが、プルークボーゲンしたことは、プルークでのトップリフトが適当な大きさの横ずれの角速度をSS系に与えたため(得られたため)、すなわち、迎え角が生じたことにより横ずれターンになったと考えられる。 |
プルークトップリフトモデルについてのコンピュータ・シミュレーション(長谷川・清水・藤田,
1993;藤田・長谷川・清水, 1993)では、連続ターンのグラフィックスは実体モデルの連続ターンの観察結果とよく一致していた。また、プルークトップリフトモデルがスキーヤーに与える影響も、プルークの開き角、脛の前傾角、トップリフト角などがターンに与える影響も、トップリフトによる現実のターンに合致していると考察している。 ところで、子供のスキーを観察すると、プルークでターン内スキーのトップを持ち上げてターンしている様子がよく見受けられる。また、スキー競技選手の滑りでは、パラレルやシェーレ(スキーの前を開いたハサミ状)でターン内スキーのトップを持ち上げている姿勢がよく観察される。プルークトップリフトモデルは、子供やスキー競技選手の滑りと、ターン内スキーのトップリフトとターン外脚の雪面への押さえつけ動作の点で類似しているようである。 |