スノーボード・プロトタイプモデル
 
スノーボードロボット・プロトタイプモデルの基本的考え方
 スノーボードを角付けして、バランスを保つことは困難である。そこで図のように、スノーボードと直方体のスノーボーダーの単純なモデルを想定した。スノーボードの幅の範囲内で、重心位置が左右に傾いてもSS系(スノーボードとスノーボーダーの系)は転倒することはない(A-1、B-1)。しかし、スノーボードの幅を超えて重心位置が移動するとSS系は転倒する(A-2、B-2)。また、重心の移動に対して、スノーボードの幅が狭い場合には、安定性が悪く(A-2)、幅が広い場合には、安定性が良くなる(B-1)。そこで、スノーボードの幅は、ある程度広くとることにより、左右への安定性を高めることができる。しかしながら、あまりスノーボードの幅が広すぎても、今度は角付けを切り替える際に、重心の左右への移動を大きくしなくてはならない。また、仮にスノーボードの幅の範囲内であっても、重心の移動に伴ってスノーボードの角付けがわずかながら生じる。さらに、静止した状態で支持基底面を重心位置が大幅に越えてしまうと角付けが急激に起こり、SS系は転倒する。
スノーボードロボット・プロトタイプモデルの具体例
 具体例として、図のようにサーボモータを1個取り付け、直方体のスノーボーダーが、スノーボードの左右のエッジ側に重心移動ができる(傾く)プロトタイプモデルを製作した。このプロトタイプモデルにはサイドカットのあるスノーボードを使用した。
 スノーボードの長さは190mm、ショルダー65mm、ウェスト45mm、ヒール55mmであった。スノーボーダーは長さ180mmとした。スノーボードのおおよそのサイドカットの半径は230mmで、全質量は150gであった。スノーボードは有効サイドカーブが生じるようにサイドカットを有し、かつスノーボードの滑走面側にわずかに凸(逆アーチベンド)になるように、たわみを作ってある。
 そして、サーボモータを1個使い、スノーボーダーがスノーボードの進行方向に対して左右に傾くようにした。また、スノーボーダーの足元にはビスを取り付け、スノーボーダーが左右に傾く軸とした。このように、直方体のスノーボーダーをスノーボードの左右に傾けることにより、重心位置をスノーボードの左右のエッジ付近まで移動可能なようにサーボモータにより動作させた。(なお、図のモデルには支え棒のような付属物が付いているが、これは転倒時の緩衝用で、正常にターンする場合は接地しない。)
スーボードロボット・プロトタイプモデルの連続ターン
  このモデルを連続ターンさせるには、例えば図4のように、まずプロトタイプモデルを進行方向の右側に傾けると右側のサイドカットが斜面と接し、有効サイドカーブが生じる。そして、有効サイドカーブの影響を受けて山回りターンが始まる。次に、タイミングを見計らって、目視によりスノーボーダーを左側に傾けると、スノーボーダーの重心が左側に移動してスノーボードの角付けが切り替わり、スノーボードの左側の有効サイドカーブが働いて、谷回りターンが生じる。そして、スノーボーダーが左側に傾いたままの姿勢を保持すると、谷回りターンに引き続き山回りターンに移行する。さらに、目視によりスノーボーダーを右側に傾けると右回りターンが生じる。このようにして、プロトタイプモデルは連続ターンを行うことができた。
 スノーボードロボット・プロトタイプモデルが連続ターンをする要素として、以下の3つがあげられる。1)ターンさせたい側にスノーボーダーの重心位置を移動する(傾ける)。2)有効サイドカーブが生じるスノーボードを使用する。3)ある程度の幅(本研究の条件では、45mmから65mm)のあるスノーボードを使用する。これら三つの要素は実際のスノーボーダーのターンにも共通すると考えられる。すなわち、スノーボーダーもスノーボードの左右の有効サイドカーブが働くように、重心位置をスノーボードの中心からエッジ側に移動する(傾ける)ことにより、ターンができることを示唆している。また、スノーボードは比較的、幅が広いので左右に重心移動を行っても、スノーボードの幅が一種の許容範囲(allowance)として働き、SS系に急激な角付けの変化を及ぼすことを和らげているようである。
 サーボモータを1個取り付けて、直方体のスノーボーダーが、スノーボードの左右のエッジ側に重心移動できるプロトタイプモデルを製作した。スノーボードにはある程度の幅を持たせ、かつ有効サイドカーブが働くように、サイドカットのあるスノーボードを使用した。目視による制御であるが、スノーボーダーをターンの内側に傾けるだけで連続ターンが可能になった。すなわち、1)スノーボーダーによる重心の内側への移動、2)スノーボードに付けられたサイドカーブ、3)スノーボードの幅が、スノーボードの連続ターンにとって重要な要素であることが明らかになった。
参考:清水史郎、長谷川健二(2002):スノーボードロボットの開発-プロトタイプモデル-、日本スキー学会誌、9(2)、185-190.