横ずれターン

 横ずれターンでは、スキーを角付けして雪面にスキーが食い込むと、横ずれできる方向と、横ずれできない方向が生じる。すなわち、ターンではターン外側にずれることができるが、ターン内側に横ずれすることはできない。スキーの横ずれが、スキーのトップ(前)よりテール(後)の方が大きくずれれば、横ずれターンをする。もし、スキーの前部と後部が同じように横ずれすれば横滑りになる。また、スキーが十分に雪面に食い込んでいればターン内側は逆エッジになり、ターン内側には横ずれできない(長谷川・清水, 1993a;1993b)による、スキーの角付けと「逆サイド横ずれ」の禁止を元に加筆)。


 また、スキーを角付けして、雪面にスキーが食い込むと、横ずれできる方向と横ずれできない方向が生じる。すなわち、スキーの角付けを行うことによって、スキーのソール(滑走面)側にずれるが、スキーのサイド側にずれない。そして、斜面上でスキーの山側の角付けがなされているとき、谷側には横ずれ
できるが山側に横ずれできない。これらが、スキーを角付けした状態でターンをする上での重要な制限になっている。


 
  トップリフトモデル
 図の左のように、両スキーの長軸を平行にしておくと、左右のスキーは同程度に角付けされるが、右の図ように脚の長い側を内側に回転(内旋)すると、脚の長い側の先端が脚の短い側に潜り込み、結果として、脚の短い側のスキーのトップ(先端)が持ち上がってくる。これをトップリフトと呼ぶ。トップリフトした側のスキーに注目するとトップリフトした側のテールが斜面と接地している。


 そこで、切れ込みターンモデルと同様に、ここでは代表的な3種類の形状のスキーを使用する。すなわち、1)ストレートスキー、2)凸状スキー、3)凹状スキーである(清水,1995)。そして、3種類のスキーの脚の長い側のスキーを内側に回転(内旋)して、脚の短い側のスキーのトップが持ち上がった状態でスキーを固定した。2本のスキーがなす角度は15度であり、スキーの長さは250mm、トップリフトは約8mmであった。また、斜度は20度とした。そして、滑らせる方向は、最大傾斜線方向(0度方向)、+45度方向、-45度方向の3方向であった。


 ストレートスキー

 ストレートスキーを0度方向に滑らせると、スキーがストレートにも拘わらずトップリフトした側に右ターンをした。残されたシュプールは2本の線が残らない横ずれターンである。
 次に、ストレートスキーを+45度方向に滑らせると、スキーがストレートにも拘わらず、トップリフトした側に横ずれ右ターンをした。2本のスキーの長軸が平行ならば、ストレートスキーは、最初に方向付けられた方向に真っ直ぐ滑降する。しかし、ストレートスキーにも拘わらず、トップリフトをすると、トップリフトした方向に横ずれターンをした。残されたシュプールは2本の線ではなく横ずれの跡が残った。
 さらに、-45度方向に滑らせると、スキーがストレートにも拘わらず、同様にトップリフトした側に谷回り横ずれターンをした。以上のように、ストレートスキーをどの方向に滑らせても、トップリフトした側に横ずれを伴ってターンをした。
 
 凸状スキー
 今度は、凸状スキーをトップリフトさせて0度方向に滑らせると、トップリフトした側に右ターンをする。それに対して、2本の凸状スキーの長軸が平行の場合には、切れ込みターンが生じ左側に切れ込みターンをした。すなわち、有効サイドカーブからすると、凸状スキーは左側にターンをするにも拘わらず、トップリフトの影響をより強く受けて、トップリフトした右側に横ずれターンをした。
 次に、凸状スキーを、トップリフトさせて+45度方向に滑らせると、トップリフトした右側に山回り横ずれターンをした。
 さらに、図のように凸状スキーを、-45度方向に滑らせると、トップリフトした右側に横ずれ谷回りターンをした。
 
 以上のように、凸状スキーをどの方向に滑らせても、トップリフトした側に横ずれを伴ってターンをした。
凹状スキー

 凹状スキーを、0度方向に滑らせると、トップリフトした側に右ターンをする。ただし、2本の凹状スキーの長軸を平行にして滑らせると、有効サイドカーブの影響で右側に切れ込みターンをした。凹状スキーはトップリフト側に横ずれターンをするが、有効サイドカーブの影響を受けて曲率半径は切れ込みターンの時より短くなった。すなわち、有効サイドカーブとトップリフトは共に右ターンが生じ、両方の影響を受けて相乗効果で、より横ずれターンがしやすくなった。
 次に、凹状スキーを、山側のスキーを角付けした状態で+45度方向に滑らせると、スキーの有効サイドカーブとトップリフトの影響で、トップリフトした右側に山回り横ずれターンをした。
 さらに、凹状スキーを谷側のスキーを角付けした状態で-45度方向に滑らせると、トップリフトした右側に谷回り横ずれターンをした。このように凹状スキーは右側が角付けされていれば切れ込みターンで右ターンし、トップリフトからもトップリフト側に横ずれ右ターンをする。ゆえに、凹状スキーをトップリフトさせると相乗効果でトップリフトした右側に、よりターンがしやすくなる。
 
 以上のように、凹状スキーをどの方向に滑らせても、トップリフトした側に横ずれを伴ってターンをした。
 これらを、まとめてみると、スキーのサイドカットは、有効サイドカーブに沿った切れ込みターンを起こすが、トップリフトは、それにも増して横ずれターンがしやすい条件であった。斜滑降姿勢からターン外脚を、内側に回転(股関節の内旋)するとトップリフトが生じ、トップリフトした側に横ずれターンが起きた。なお、横ずれターンのしやすさは、凹状スキー、ストレートスキー、凸状スキーの順であった。
 このような簡単な横ずれターンモデルは、スキーヤーの指導にも役立てることができる。スキーヤーが横ずれターンをしたければ、ターン外脚の内旋(内捻り)をすれば横ずれターンができることを示している。切れ込みターンは、有効サイドカーブなどによってターンの弧が規定されるが、このトップリフトによるターンは、簡単に横ずれターンをするので適応幅が広い。初心者にとって、スピードは恐怖心とつながるので、スピードをコントロールして滑るには、この横ずれターンが適していると考えられる。