サイドカットの違いがターンに及ぼす影響


 サイドカットがスキーのターンに及ぼす影響を調べるため、装置を作製した。この装置は片方の脚を短く、もう一方の脚を長くしてある。そうすることによって、この装置全体が脚の短い側に傾き、すなわち、重心が脚の短い側に移動し、両方のスキーを同じ程度に角付けすることができる。その際、脚の短い側は外エッジに、脚の長い側は内エッジに角付けされている。また、進行方向に向かって、すべて両スキーの右側のエッジが角付けされるように設定した。
 スキーには滑りやすいように、摩擦の小さいテフロンテープがスキーの底とサイドに貼り付けてある。ここで重要なことは、2本のスキーの長軸を平行に設定することである。
 このような装置に、1)ストレートスキー(くびれのない直線状のスキー)、2)凸状スキー(スキーのショルダーとヒールに対し、ウエストが膨らんだスキー)、3)凹状スキー(スキーの前後に対し、中央部がくびれたスキー)の3種類のスキーを取り付けた。
 そして、この装置を使って、
1)最大傾斜線方向(以後、0度方向とする)、
2)両スキーの山側を角付けした+45度方向への斜滑降(以後、+45度方向とする)、
3)両スキーの谷側を角付けした -45度方向への斜滑降(以後、-45度方向とする)
の3方向に滑降させた。
  ストレートスキー

 ストレートスキーは、0度方向に滑らせると直線的に滑る。次に、+45度方向に斜滑降させると、最初に方向付けた方向に斜滑降する。さらに、-45度方向に谷側を角付けした斜滑降で滑らせると、最初に方向付けた方向に斜滑降する。以上のように、ストレートスキーを角付けして滑らせると、最初滑らせた方向に直線的に滑っていく。この様に、両スキーを角付けした状態で滑らせると、長手方向に対して横(サイド側)には、ずれにくく、スキーの縦に滑る(縦ずれする)ので、その結果、角付けされた直線を含むように縦ずれのシュプールが残る。


  凸状スキー

 凸状スキーに付けたサイドカットの曲率半径は100cmとした。凸状スキーを最大傾斜線に向かって滑らせると、進行方向に対してスキーの右側の両エッジが立っているので、スキーの進行方向に対して左ターンをする。残されたシュプールは2本の線が残り、横ずれのない切れ込みターンであり、シュプールの曲率半径は約100cmであった。 次に、+45度方向へ両スキーの山側のエッジを角付けした斜滑降で滑らせると、左側へ谷まわリターンをする。残されたシュプールは2本の横ずれのない切れ込みターンであり、残されたシュプールの曲率半径は約100cmであった。
 さらに、-45度方向へ両スキーの谷側のエッジを角付けした斜滑降で滑らせると、左側へ山回りターンをする。これも残されたシュプールは2本の横ずれのない切れ込みターンであった。
 このように、凸状スキーの右側の両エッジを角付けして滑らせると、スキーのサイドに付けられた凸の形状を含むように、スキーは左側に切れ込みターンをした。


  凹状スキー

 スキーに付けたサイドカットの曲率半径は100cmとした。そして、凹状スキーの右側の両エッジを立てて、最大傾斜線(0度)方向に滑らせると右側へ切れ込みターンをする。残されたシュプールの曲率半径は約100cmであった。次に、凹状スキーを+45度方向に山側のエッジを角付けした状態で斜滑降させると、右側へ山回りターン(切れ込みターン)をする。さらに、-45度方向に両スキーの谷側のエッジを角付けした斜滑降で滑らせると、右側に谷回りターン(切れ込みターン)をした。これも残されたシュプールは2本の切れ込みターンであり曲率半径は同じく約100cmであった。
 このように、凹状スキーの右側のエッジを角付けして滑らせると、スキーに付けられた凹の形状を含むように、スキーは右側に切れ込みターン(カービングターン)した。この凹状スキーも、ストレートスキーや凸状スキーと同様に角付けを強めると、スキーの横摩擦は縦摩擦より大きいので、横ずれ(横滑り)しにくく、縦ずれ(縦滑り)する。すると、凹状スキーと雪面(絨毯)と接する曲線はスキー側から見て凹なので、この凹を含むような切れ込みターンになる。
 以上、スキーのサイドに付けられた形状が異なる3種類のスキーを角付けして滑降させた結果、スキーの形状と絨毯(雪面)が接する直線や曲線を含むようにスキーが縦滑りして、切れ込みターンが行われることが明らかになった。


   有効サイドカーブ

 実際のスキーではサイドカットだけでなく、たわみ剛性、ねじれ剛性などが複雑に関係して、スキーは変形し、スキーと雪面はある曲線で接することになる。長谷川と清水(1993)は、それを「有効サイドカーブ」と名付けた。すなわち、実際の切れ込みターンでは、雪とスキーのエッジが接してできる有効サイドカーブに沿って、スキーはターンをしていくと考えられる。
 鏡のような平面と凹状スキーのサイドカットとの接点は、スキーの前と後ろの2点で接触している。そこで、絨毯(雪面)とスキーのサイドカットが点ではなく線で接触するためには、スキーを荷重して、スキーをたわませるとスキーと平面が曲線で接触し、有効サイドカーブが生じる。本研究で使用しているアルミ製の凹状スキーには、凹状のサイドカットが付けてあり、たわみもスキー上方から見て下方側へ凸になるように、たわませてある。すなわち、凹状スキーの中央部をたわませると、スキーと平面が曲線で接触し有効サイドカーブが生じる。