支え棒付き1本スキーによる連続自動横ずれターンモデル
 
支え棒付き1本スキーによる連続自動横ずれターンモデルの基本的考え
 
 支え棒付き1本スキーにより、連続かつ自動的に横ずれターンを繰り返すターンモデルを開発した(清水・長谷川, 2000)。
 1本スキーを角付けして、バランスを保つことは困難である。そこで、スキーとスキーヤーを想定し、スキーに対して直角、かつ左右対称に支え棒を取り付けた。そして、このモデルは左右に傾いても、支え棒の先端が斜面と接触し、モデルが転倒しないようになっている。これらのモデルは、すでに開発ずみの支え棒付き1本スキーによる連続自動切れ込みターンモデルと基本的に同様である。ただし、条件が異なっているのは、スキーにサイドカットが付いていないストレートスキーを使用していることである。
 この横ずれによる1本スキーモデルでは、スキーヤーとスキーの取り付け位置が重要になる。ここで、ストレートスキーへのスキーヤーの取り付け位置を変化させてみた。すなわち、以下の3つの条件で、スキーに直立状の部材(スキーヤー)を取り付けた。
 1)スキーの中央部にスキーヤーを取り付ける。
 2)スキーの後部にスキーヤーを取り付ける。
 3)スキーの前部にスキーヤーを取り付ける。
 現実のスキーでは、スキー靴の取り付け位置を前後に移動させたことに対応していると考えられる。
スキーの中央部にスキーヤーを取り付けたモデル
 このモデルは、図のように、スキーが角付けされ、支え棒と斜面との接点(黒丸)を中心にスキーがターンをしようとする。スキーの後半部では、ターン外側に横ずれするので、横ずれが可能である。しかし、スキーの前半部ではターンの内側に横ずれしなければならないが、この方向はスキーが角付けされていれば横ずれできない方向である。また、この方向はスキーのサイド側であり、横ずれ禁止の方向でもある。
 すなわち、スキーヤーの取り付け位置が中央部の場合、スキーの前半部では横ずれ禁止条件が生じ、後半部は横ずれが可能である。そこで、全体としては、スキーの前半部が横ずれ禁止の影響を受け、うまく連続かつ自動的にターンすることはできない。
スキーの後部にスキーヤーを取り付けたモデ
 図のように、スキーを角付けして、支え棒と斜面との接点(黒丸)を中心にターンをしようとすると、スキーは角付けされているのでスキーのサイド側に横ずれしなくてはならない。しかし、この方向はスキーが角付けされていれば横ずれできない方向である。同様に、ターン中はターン内側に横ずれすることは、横ずれ禁止の条件になっている。
 したがって、スキーヤーの取り付け位置が後部の場合は、スキー全体が横ずれ禁止の条件になっている。つまり、スキーヤーを後部に取り付けた場合は、横ずれを伴ってターンをすることができない。もちろん、連続かつ自動的にターンをすることもできない。
スキーの前部にスキーヤーを取り付けたモデル
 そこで、図のようにスキーの前部に、スキーヤーを取り付けると、スキー全体がターン外側に横ずれすることができ、角付けによる横ずれ禁止の制限を受けない。したがって、スキー全体が横ずれを伴ってターンをすることができる。さらに、スキーが十分に山側に回り込めば、重力により自動的に角付けを切り替えることもできる。すなわち、ストレートの1本スキーが、ターン外側に横ずれしながら連続ターンをすることができる。
支え棒付き1本スキーによる連続自動横ずれターンモデルの具体例
 図には、支え棒付き1本スキーによる連続自動横ずれターンモデルの具体例を示した。有効サイドカーブの影響を避けるために、ストレートスキーを使用した。また、スキーヤーを想定した部材から、左右対称にピアノ線を同じ長さに取り付けた。そして、ピアノ線の先端が斜面と接触した際、できるだけ摩擦抵抗を少なくするため、ピアノ線の先端を曲げてある。そして、スキーヤーの取り付け位置は、すでに上述した理由から、スキーの前部に取り付けてある。
 斜度は20度の斜面を用いた。このモデルを連続ターンさせるには、まず、図の一番上の図のように、スキーの谷エッジを角付けした斜滑降で斜面を滑らせる。すると、スキーはストレートであるが、スキーヤーの取り付け位置が前部であるので、スキー後部がスキー前部に比べ、ターン外側に多く横ずれしてスキーが谷回りする。スキーが最大傾斜線を越えて山回りに入ると、モデルは常に重力の斜面成分によって斜面下向きに引っ張られているので自動的に谷側へ傾く。その結果、スキーの角付けが自動的に切り替わり、ターン内側の支え棒が斜面と接触して、スキーのエッジ角が一定に保たれる。以上のようにして、このモデルは連続かつ自動的に横ずれターンを行うことができる。
 すなわち、1)角付けと、角付けの切り替えに伴う、2)重心の内側への移動、スキーヤーを前部に取り付けたことにより回転モーメントが生じ、その結果、3)迎え角が生じて、横ずれターンをしたと考えられる。
 ところで、スノーボードのノーマルスタンスでは左足に荷重して、右足を前後(進行方向に向かっては左右)に振って横ずれターンを行うのが、動作のコツであると一般に言われている。すなわち、スノーボードの2足操作では、前足を軸足にして後足で操作を行い、これらは一般にドリフトターン(横ずれターン)と呼ばれている。本研究のように、スキーの前部に荷重することは、このようなスノーボードの横ずれターン(ドリフトターン)のコツと共通しているようである。ちなみに、スノーボードの1足操作は両足同時操作でカービングターンの際に有効であり、すでに開発した支え棒付き1本スキーの連続切れ込みターンモデル(清水・長谷川, 1999)に対応していると考えられる。
 また、本研究の支え棒付き1本スキーモデルは、ターン内側の支点を中心にストレートスキーが横ずれを伴ってターンをするという点で、すでに述べたプルークトップリフトモ デルやシュテムトップリフトモデルと共通している。いずれにしても、最も単純な1本スキーモデルが、内部自由度が全くなくても、連続かつ自動的に横ずれターンができた意義は大きいと考えられる。
 すでに、ストレートの1本スキーと支え棒を付けたスキーのコンピュータ・シミュレーションを行った(長谷川と清水, 1990)。そこでは剛体スキーヤーモデルを仮定し、スキーと斜面の間の抗力を摩擦抵抗として近似し、縦方向および横方向の一定の摩擦係数を導入することにより、SS系に対する運動方程式を一義的な解をもつ連立微分方程式の形に表すことができた。支え棒は、当初スキーヤーの内傾角を一定に保ち、力学的な取り扱いを簡単にするために導入した。この極めて単純なモデルには運動の内部自由度が全くないにもかかわらず、スキーは横ずれによるターンを行うことが分かった。さらに、支え棒にかかる荷重は小さく、たとえ支え棒がなくても、スキーヤーの内傾角を保ったまま、スキーは横ずれによってターンをすることが分かった。
 このような支え棒付き1本スキーモデルは、マチアス・ズダルスキーによるリリエンフェルト・スキー術の1本杖スキーに類似している。今から百年以上前のスキーの形状はストレートに近いことから、この支え棒付き1本スキーによる連続自動横ずれターンモデルの方が、より1本杖スキーを再現していると考えられる。また、斜面上ではスキーヤーは後傾姿勢になりやすく、後傾姿勢になると後ろ向きの回転モーメントが生じて転倒しやすく、また、スキーもコントロールしにくい。スキーの取り付け位置を後部にすることは、後傾姿勢をとることにも通じ、スキーが横ずれ禁止条件になり、横ずれを伴ってターンしようとすると、不利な姿勢であることを示唆している。