支え棒付き1本スキーによる連続自動切れ込みターン

        
支え棒付き1本スキーによる連続自動切れ込みターンモデルの基本的考え
 すでに述べた切れ込みターンモデルでは、スキーヤーと同じように、2本のスキーを使用している。しかし、さらにより単純なターンモデルとして、1本スキーで連続かつ自動的にターンができるモデルを考えることができる。例えば、スノーボードやチェアスキーなどの様に、1本のスキーで雪上をターンするモデルである。また、アルペンスキーにおいては通常は2本のスキーを使用するが、ステップターンのように、ターンの局面によっては1本のスキーでターンをすることもある。
 このように、雪上をターンするモデルの中で、最も単純なモデルは1本スキーであるが、1本のスキーでは左右の安定性が悪い。そこで、このモデルの1本スキーには支え棒を取り付けることにした(清水・長谷川, 1999)。
 すでに、支え棒付き1本スキーモデルについてのコンピュータ・シミュレーションでは、直線状の1本スキー(長谷川・清水, 1990)や有効サイドカーブを持つ1本スキー(長谷川ら, 1997, 1998, 1999)に支え棒を付けた剛体スキーモデルが、横ずれを伴ってシャープなターンをすることが分かっている。
1本スキーを角付けして、バランスを保つことは困難である。そこで、図のように、スキーとスキーヤーを想定し、スキーに対して直角、かつ左右対称に支え棒を取り付けるモデルを考案した。そして、このモデルは左右に傾いても、支え棒の先端が斜面と接触し、このモデルが転倒しないようになっている。
 この支え棒付き切れ込み1本スキーモデルでは、以下のようにスキーヤー、スキーおよび支え棒を設定した。1)スキーヤーは板状である。2)スキーは有効サイドカーブが働く凹状スキーを使用する。3)スキーヤーおよびスキーの縦方向の中心線を含む平面はスキーに垂直である。4)支え棒はスキーヤーに直角、かつスキーの横方向と平行である。そして、斜面の斜度は20度とした。
 その際、斜度に対して支え棒が短かすぎると、モデルが傾きすぎて、自動的にスキーの角付けの切り替えができない。また、斜面に対して支え棒が長すぎると、角付けの切り替えは容易だが、スキーへの角付けが弱くなり、有効サイドカーブに沿った切れ込みターンができない。そこで、斜面の等高線とスキーの長軸が平行になるようにスキーを置き、おおよそモデルの重心からの垂線が山側のエッジの上を通過するように、支え棒の長さを設定すると、うまく連続かつ自動的にターンができる。
支え棒付き1本スキーによる連続自動切れ込みターンモデルの具体例
 図には、支え棒付き1本スキーモデルの具体例を示した。スキーにはサイドカットと有効サイドカーブが働くように、たわみが付いている。また、スキーヤーを想定した部材から、左右対称にピアノ線を同じ長さに取り付けた。そして、ピアノ線の先端が斜面と接触した際、できるだけ摩擦抵抗を少なくするためにピアノ線の先端を曲げてある。
 このモデルを連続ターンさせるには、まず、図の一番上のように、スキーの谷エッジを角付けした斜滑降で斜面を滑らせる。すると、スキーにはサイドカットとたわみが付けてあるので、有効サイドカーブに沿ってスキーが谷回りする。スキーが最大傾斜線を越えて山回りに入ると、モデルは常に重力の斜面成分によって斜面下向きに引っ張られているので、自動的に谷側へ傾く。その結果、スキーの角付けが自動的に切り替わり、支え棒のターン内側が斜面と接触して、スキーのエッジ角が一定に保たれる。そして、有効サイドカーブにより、次のターンが行われる。以上のようにして、このモデルは連続かつ自動的にターンを行うことができる。
 このことは、スキーヤーもターンの終末期で、重力によりターン内側へ自然に傾くのに任せていれば、自然に角付けが切り替わり、連続ターンができる可能性があることを示している。ただし、内傾が強すぎるとスキーヤーには支え棒が付いていないので内側に転倒し、内傾が十分でないとスキーの角付けが不足して、有効サイドカーブによる切れ込みターンが起こらなくなる。もちろん、実際のスキーヤーには支え棒など付いていない。ストックを支え棒として使うことは可能かも知れないが、ターンの後半、スキーヤーは剛体のままで何もせず自然に任せておくだけで、重力によってスキーの角付けが切り替わる可能性があることが示唆された。しかし、スキーヤーには恐怖心や姿勢反射などが起こり、姿勢に変化が生じ、必ずしも同一姿勢を保持できるとは限らないところが、スキーロボットによるモデルとの相違点である。
 このような支え棒付き1本スキーは、歴史的に見れば明治44年にテオドール・フォン・レルヒ少佐によって日本に伝えられた、マチアス・ズダルスキーによるリリエンフェルト・スキー術に登場する1本杖スキー(片桐, 1984)と類似しているのかもしれない。1本杖スキーは2本のスキーを使っており、本研究の1本スキーとは異なるが、いずれもターン内側に支点を置いてターンを行っているところが共通している。
 また、このモデルは斜度が一定の長い斜面では、最初は切れ込みターンをするが、その後、何度か連続ターンするとスキーが加速して、最終的にはモデルが直滑降してしまうことも観察された。本来、単純なモデルが連続ターンできる条件として、ターン始動期でのスキーの初速度(例えば、角付けの切り替え後)が、次のターンの始動期で元の初速度に戻れば、安定して連続ターンをすることができる。しかし、このモデルでは加速して、必ずしも元の初速度に戻らず、直滑降になってしまったと考えられる。この点については今後、実物モデルとコンピュータ・シミュレーションの比較などにより、詳細に検討する必要がある。しかし、最も単純な1本スキーモデルが、内部自由度が全くなくても、ある程度、連続かつ自動的に切れ込みターンをすることができた意義は大きい。
 また、このモデルが連続切れ込みターンをする理由として、1)凹状スキーを使用する。2)角付けが生じ、自動的に角付けを切り替えることができる。3)重心がターンの内側に移動する、を挙げることができる。