脚の屈曲と伸展モデル


 脚の屈曲と伸展モデルの基本的考え

 一般に、脚の屈曲と伸展は、股関節、膝関節および足関節の3つの関節によって行われる動作である。しかし、脚に固定されたスキーについてみると、脚の屈曲と伸展に伴ってスキーが持ち上がったり、下がったりする。すなわち、脚の屈曲と伸展は機構的には脚が全体として短くなったり、長くなったりすると考えることができる。
 そこで、図には脚の屈曲と伸展モデル(清水,1988)の基本的な考え方を、模式図として示した。図の左上の脚を同じ長さにした直立の姿勢、すなわち、直滑降姿勢を、図の右上のように、斜面に立たせると山側のスキーは角付けされた状態になるが、谷側のスキーは斜面から離れる。もし、左右のスキーを斜面に接地させようとすると、左右のスキーには角付けが生じないで、いわゆる「平踏み」の状態になる。そこで、図の左下のように、片側の脚を伸展(長く)し、もう一方の脚を屈曲(短く)して、図の右下のように、斜面に立たせると左右のスキーが同程度に角付けされた状態で斜面に立つことができる。同じように、平地で一方の脚の屈曲ともう一方の脚の伸展を行えば、SS系が角付けしながら脚の屈曲した側に傾く。また、左右脚の屈曲と伸展を逆にすると逆側(脚の短い側)に傾き、ストレート内傾による斜滑降姿勢がとれる。
 実際のスキーヤーは、脚を短くしたり長くしたりできないので、足、膝、股関節が連動して脚の屈曲と伸展を行い、結果として、図のように、脚が短く、あるいは長くなり、スキーの角付けに対しては同じ効果を及ぼすことができる。このようにすると、脚を屈曲した側にSS系が傾き、左右のスキーに同程度の角付けが生じる。片側の脚の屈曲ともう一方の脚の伸展の程度を大きくするればするほど、スキーの角付けも強くなり、重心も脚の屈曲側(ターンの内側)に移動する。
 このモデルは、ストレート内傾姿勢をとる。左右スキーの前後差が生じないことからも、スキーに対して正対姿勢であり外向姿勢や内向姿勢はとらない。正対姿勢をとる点では、股関節の内転と外転モデル(清水,1987)と同様である。


 脚の屈曲と伸展モデルの具体例
 
 脚の屈曲と伸展モデルの具体例として、写真のような、ラジオコントロールによる、脚の屈曲と伸展モデルを作製した。
 スキーは雪上や絨毯の上でもターンができるように、スキーの滑降面とサイドにテフロンテープを貼り付けた。写真の中央のように、左右の脚の長さを同程度にしておくと、角付けのない直滑降姿勢になるが、左の写真のうように、左脚を屈曲、右脚を伸展するとSS系が左側に傾き、右の写真のように右脚を屈曲、左脚を伸展するとSS系が右側に傾く。以上のように、左右の脚をそれぞれ屈曲と伸展すると、SS系が屈曲した側に傾き重心も屈曲側に移動する。また、それに応じて角付けも強くなる。

 以下の写真には、脚の屈曲と伸展モデルの連続パラレルターンを示した。斜度は20度であった。ここでは、有効サイドカットの曲率半径を100cmとしてあり、ターンの後に残されたシュプールの曲率半径も約100cmであった。ターンの前半では重力はスキーをターンさせようとして働き、ターンの後半では重力はスキーを斜面の下にずらそうとして働く。だから、角付けが弱く摩擦抵抗が小さい場合にはターンの後半では曲率半径が大きくなる。そこで、角付けを強くすると、横ずれが少ない切れ込みターンになる。
 このモデルの特徴は、スキーそのものに回旋が生じないことから、プルーク系統のターンはできないが、パラレル系統のターンができることである。例えば、山回り、パラレルギルランデ、パラレルターン、ウェーデルンなどのターン技術が行える。これは、股関節の内転と外転モデルと同様である。


 もちろん、実際のスキーヤーは脚の屈曲と伸展だけの要素でターンをしているのではなく、もっと複雑な動作でターンを行っている。しかし、脚の屈曲と伸展モデルにより、脚の屈曲と伸展がターンにとって重要な動作要素の一つであることが明らかになった。
 この脚の屈曲と伸展モデルは、サイドカットの違いがターンに及ぼす影響で、スキーのサイドカットの影響を調べるために用いた装置(片側の脚を短く、もう一方を長く)と、基本的にはよく似たモデルである。異なっているのは連続ターンをするために、角付けの変換ができる機構を組み込んだことである。もちろん、凹状スキーを用いると、切れ込みターンをするが、ストレートスキーではターンをすることはできない。