股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデル

 股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルの具体例
 股関節の回旋モデルは、直滑降姿勢、プルーク姿勢、斜滑降姿勢の3つのスキーの基本姿勢と、さまざまなターン技術を再現できた。しかし、股関節の回旋モデルにできないターン技術に、例えば、立上がり抜重や沈み込み抜重によるターンなどがある。すなわち、脚の屈曲と伸展ができないため、現実のスキーヤーが行っている、いわゆるスキー関節(股関節、膝関節、足関節)の屈曲と伸展を伴ったターン技術ができない。
 一方、脚の屈曲と伸展モデルは、有効サイドカーブに沿ったパラレルターンが再現できる。しかし、プルーク姿勢がとれないので、プルークボーゲンやシュテムターンは行えなかった。
 そこで、立ち上がり抜重によるシュテムターンを行おうとすれば、上記2つのモデルを複合することが必要になる。ところで、この2つのモデルを複合するためには、左右の足、膝、股関節の屈曲・伸展と左右股関節の回旋の合計8箇所の関節をサーボモータなどにより動作させ、かつ制御しなくてはならない。しかしながら、足、膝、股関節の3つの関節は独立しても動くが、脚の屈曲と伸展の場合には、3関節が連動して動作している。そこで、1個のサーボモータで片側の足、膝、股関節の屈曲と伸展ができるリンク機構を考案し、脚の屈曲と伸展に近似させた。その結果、左右の股関節の回旋(2個)と左右の脚の屈曲と伸展(2個)の合計4個のサーボモータで制御できる、股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合型モデルの具体例を考案した。
 股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルの基本姿勢
 高い直滑降姿勢と低い直滑降姿勢
 写真には、股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルの、脚を伸展した高い直滑降姿勢と、脚を屈曲した低い直滑降姿勢を示した。このように、脚を伸展したり屈曲したりすることにより、高い直滑降姿勢や低い直滑降姿勢をとることができる。このような動作を行うことは、例えば、直滑降で斜面に凹凸があれば、脚の屈曲と伸展を使ってスキーヤーが凸部から飛び出してしまうのを防いだり、あるいは逆に、積極的に凸部から飛び出してジャンプすることもできる。また、荷重により積極的にスキーをたわますこともできる。この股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルによって、スキーヤーが行っている直滑降姿勢での屈曲と伸展を再現することができた。
 高いプルーク姿勢と低いプルーク姿勢
 写真には、股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルのプルーク姿勢を示した。プルーク姿勢を保ったまま、脚を伸展することにより高いプルーク姿勢を、脚を屈曲することによって低いプルーク姿勢をとることができる。この複合モデルによってプルーク姿勢での脚の屈曲と伸展を再現できた。
 高い斜滑降姿勢と低い斜滑降姿勢
 写真には、股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルの斜滑降姿勢を示した。斜滑降姿勢を保ったまま、脚を伸展することにより高い斜滑降姿勢を、脚を屈曲することにより低い斜滑降姿勢をとることができる。このように、スキーの斜滑降姿勢そのものは股関節の回旋によるものだが、脚の屈曲と伸展を複合することにより、さらにスキーヤーに近い斜滑降姿勢が再現できた。
 股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルのターン技術
 
 立ち上がりによるプークボーゲンと沈み込みによるプルークボーゲン
 股関節の回旋モデルはプルークボーゲンが再現でき、脚の屈曲と伸展を複合させたモデルはプルーク姿勢での高低が再現できた。ゆえに、立ち上がりによるプルークボーゲンと沈み込みによるプルークボーゲンも行うことが可能である。この複合モデルの立ち上がりによるプルークボーゲンでは、ターンの前半は、低いプルーク姿勢から立ち上がりながらターン外股関節の内旋を強め、スキーを最大傾斜線に向けていく。ターン後半は、脚を屈曲しながら、さらにターン外股関節の内旋を強めてターンを仕上げる。
 股関節の回旋モデルだけでもプルークボーゲンは再現できるが、このように、脚の屈曲と伸展(上下動)を使ったプルークボーゲンは、よりスキーヤーの動作に近いプルークボーゲンである。ターンの前半に、立ち上がりながら外股関節の内旋を行うと、スキーは向きを変えやすく、ターン後半に、沈み込みながら外股関節を内旋すると、ターン外スキーの内エッジの角付けが強まり、スキーが横ずれし過ぎるのを防ぐことができる。このターン前半の立ち上がりと、ターン後半の沈み込みによるターンは、スキーヤーにとって動作しやすいターン技術であると考えられる。
 この複合モデルの沈み込みによるプルークボーゲンでは、立ち上がりによるプルークボーゲンと、脚の屈曲と伸展のリズムが逆になっている。すなわち、ターン前半は、高いプルーク姿勢から脚を屈曲(沈み込み)しながらターン外股関節を内旋して、最大傾斜線にスキーを向けていく。ターン後半では、脚を伸展(立ち上がり)しながら外股関節の内旋をさらに強めてターンを仕上げる。この複合モデルの沈み込みによるプルークボーゲンは、スキーヤーの沈み込みによるプルークボーゲンを再現している。
 このように、股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルは、現実のスキーヤーが行っている上下動を伴った2種類のプルークボーゲン(立ち上がりと沈み込み)を再現することができた。
 立ち上がりによるシュテムターンと沈み込みによるシュテムターン
 この複合モデルの立ち上がりによるシュテムターンでは、ターンの最初は、低い斜滑降姿勢でスタートする。そして、ターン前半では、ターン外股関節の内旋と両脚の伸展により高いプルーク姿勢になり、スキーを最大傾斜線に落とし込む。さらに、ターン後半では、両脚の屈曲とターン内股関節の外旋により、スキーを平行に揃えて低い斜滑降姿勢になる。このターン技術も、ターン前半は、ターン外股関節の内旋を強めていくことにより、プルークトップリフトが生じ、横ずれターンがしやすくなる。この複合モデルによって、スキーヤーの立ち上がりによるシュテムターンが再現できた。
 この複合モデルの沈み込みによるシュテムターンの最初は、両脚を伸展した高い斜滑降姿勢からスタートし、ターン前半は、ターン外股関節の内旋を行いながら両脚を屈曲して低いプルーク姿勢になり、ターン後半は、ターン内股関節を外旋しながら両脚を伸展して高い斜滑降姿勢になる。立ち上がりによるシュテムターンと上下動のリズムが逆になっており、スキーヤーの沈み込みによるシュテムターンを再現している。
 このように、股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルは、上下動を伴った2種類のシュテムターン(立ち上がりと沈み込み)を再現することができた。
 立ち上がりによるパラレルターンと沈み込みによるパラレルターン
 この複合モデルの立ち上がりによるパラレルターンの最初は、低い姿勢の斜滑降からスタートし、両脚を伸展しながら(立ち上がりながら)両股関節の回旋により両スキーの角付けを切り替えて、スキーを最大傾斜線方向に谷回りターンをしていく。ターンの後半は、両脚を屈曲しながら(沈み込みながら)、両股関節の回旋により山側へスキーを回し込んでターンを仕上げる。
 この複合モデルは、現実のスキーヤーのように、立ち上がりによる連続パラレルターンを再現することができた。
 また、複合モデルの沈み込み(曲げ回し)によるパラレルターンを示した。立ち上がりによるパラレルターンとは、逆の上下動のリズムでターンを行う技術である。すなわち、高い姿勢の斜滑降から両脚を屈曲しながら(沈み込みながら)、ターン外股関節の内旋とターン内股関節の外旋によって、角付けを切り替えて最大傾斜線に向かう。ターン後半は、両脚を伸展させながら(立ち上がりながら)、ターン外股関節の内旋とターン内股関節の外旋により、高い斜滑降姿勢でターンを仕上げる。これらのターン技術は、こぶ斜面や深雪などに応用できるターン技術である。この複合モデルによって、スキーヤーの沈み込みによるパラレルターンが再現できた。
 股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルは、立ち上がりと沈み込みによるプルークボーゲン、シュテムターン、パラレルターンが再現できた。さらに、直滑降での脚の屈曲と伸展、プルークでの脚の屈曲と伸展、沈み込みながらの山回り、立ち上がりながらの山回り、さまざまなギルランデやウェーデルンなど、現在、行われているスキーのターン技術のほとんどが、股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルで再現できた。  しかし、この複合モデルにできないターン技術には、ステップターン技術がある。ステップターン技術は1本スキーでターンをする局面があり、現在の所、1本スキーでバランスを制御することは難しい。ただし、基本的な考え方は、股関節の回旋と脚の屈曲・伸展による複合モデルに、1本脚によるバランスの制御を組み込めば、近い将来、ステップターンモデルも開発が可能になると考えられる。