スキーは有効サイドカーブに沿って、切れ込みターンをする性質があることが分かった。しかし、凹状スキーによる切れ込みターンモデルでは片側のターンはできたが、連続ターンができなかった。スキーヤーが連続ターンをする際には、必ず角付けの切り替えを行わなくてはならない。角付けの切り替えの方法として、いくつかの連続ターンモデルが考えられるが、まず、股関節の内転と外転モデル(清水,1987)を取り上げる。 |
股関節の内転と外転モデルの基本的な考え方を模式図として示した。図の左上は、直立の姿勢(直滑降姿勢)である。これを斜面上に立たせると図の右上のように、山側のスキーは接地するが谷側のスキーは斜面から離れる。もし、左右のスキーを斜面に接地させようとすると、角付けが生じないで、いわゆる「平踏み」の状態になって谷側に転倒するであろう。そこで、図の左下のように股関節の内転と外転を行えば、左右の脚は股関節を中心に同じ側に回転して、両スキーのエッジが同じ程度に角付けされる。そして、図の右下の図のように、斜面にスキーヤーがスキーを角付けした状態で立つことができる。 この姿勢は、腰を中心に上体と脚が折れ曲がった姿勢で、前から見ると、ひらがなの「く」の字に見えることから、一般に、スキーでは腰からの「くの字姿勢」(斜滑降姿勢)と呼ばれている。左右の股関節の内転と外転を切り替えることによって、腰からの「くの字姿勢」が、左右に切り替わり角付けも切り替わる。そして、有効サイドカーブが生じるスキーを使用すれば切れ込みターンができ、左右の股関節の内転と外転を切り替えれば、切れ込みによる連続ターンができる。 |
つまり、股関節の内転と外転モデルは、股関節の前後を貫く軸を中心軸として、スキーが円筒の表面を描くように動く。そして、股関節の内転と外転の程度を大きくすると、それに伴ってスキーの角付けも強まり重心位置がターンの内側に移動する。
また、姿勢の特徴は、脚の上方への延長線に対して、上体がターン外側に傾くので、外傾姿勢になる。一般に、スキーの外傾姿勢は下肢がターン内側に傾き、上体はターン外側に傾く姿勢である。そして、股関節の内転と外転モデルは上体が正面を向いたままの正対姿勢であり、外向姿勢や内向姿勢をとらない。それはスキーに前後差が生じないことからも分かる。このように、股関節の内転と外転モデルはスキーヤーの腰からの「くの字姿勢」をよく再現しており、姿勢の特徴は外傾姿勢と正対姿勢である。 |
股関節の内転と外転モデルの具体例を写真で示した。股関節の内転と外転ができるように腰部の両端に脚部を蝶番で連結し、脚部の下端にはスキーを取り付けた。また、サーボモータを2個取り付けて、左右の脚が開閉(股関節の内転と外転)できるようにした。操作はラジオコントロールで行う。そして、サイドカットがターン弧の曲率を決定する重要な要素なので、ここでは曲率半径を100 cmとした。使用した斜度は20度であった。 また、股関節の内転と外転モデルの連続パラレルターンを示した。このように、現実のスキーヤーが行う腰からの「くの字姿勢」によるパラレルターンを再現している。 この股関節の内転と外転モデルの技術上の特徴は、スキーを平行にした山回り、パラレルギルランデ、パラレルターン、ウェーデルンなどのパラレル系統のターンができるということである。しかし、左右のスキーが平行のままなので、プルーク(ハの字型)のポジションがとれない。また、プルークボーゲンやシュテムターンのように、スキーをプルークにしなくてはならないターン技術はできない。 | ||||
一般に、スキーヤーの「くの字姿勢」は大きく分けて3つある。腰からの「くの字姿勢」、膝からの「くの字姿勢」、腰と膝による「くの字姿勢」であるが、この股関節の内転と外転モデルは、腰からの「くの字姿勢」に対応している。 |